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クリスマスローズ [風流花譚]

 
それは静かに天空から舞い降り続けた。

白く、全てを覆い尽くしてゆくのを眺めていた。
ふと、庭の大きな木の下の片隅に、純白の可憐な花が咲いているのに
気がついた。
私の指差す方向に視線を向けた母は
「ほんとに咲くなんて……。」
と言葉を詰まらせた。
 
 
flower730.jpg
 
 
そう、あれはとても寒い日。

それでも陽射しはキラキラと眩しかった。
いつものように父が庭の手入れをしていた。
色が少なくなった庭は、いつもよりちょっぴり寂しい感じがした。

「お花、少ないね。」
「そりゃ冬はね。……でも、こうしたらどうだい?」
「でも、それお花咲いてない……。」

父は苦笑しながら手を動かしていた。

「まだ小さいからね。でも、これは寒さにとても強い花なんだ。
雪がうっすらと積もった中に咲くこれを見たら、何だかとても幸せな
気持ちになれるはずだよ……きっとね。」
「なんていう花なの?」

父は少しためらうように
「ヘレボラス……」と、言った。
「変わった名前。どんな花が咲くのかしら?」
「ヘレボラスというのは学名で、
ギリシア語で『死に至らしめる食物』という意味があるんだ。」
「え!これ、毒があるの?恐い……」

私は気味悪そうに、大きな木の影に新しく植えられたそれらを見た。
父は小さく首を振った。

「実はこれの毒性はかなり強いんだけどね。
だけど根っこだけだよ。全然心配ないさ。
薔薇にだって刺があるだろう?
あれと同じ。美しいものには……ってやつだよ。
薔薇の花に似ているところから『レンテンローズ』とも
言われてるみたいだね。
パパが若い頃、イギリスに留学していた時に初めて見たんだ。
雪の降る、寒い寒い日に純白の花を咲かせていたんだ。
それはそれは美しくてね。
その白さが妙に目に焼き付いてる……今でもね。
これも純白のやつだと嬉しいんだけどな。」


父は遠くを見るような目をしていた。

あの時……近く視線の先へ行ってしまうことを、父は予感していたのだろうか。 

 

 

 

母がポツリ、と言った。

「あの花の名前、あなた知ってる?」
「植えた時にパパに教えてもらったよ……確かレンテンローズって言ってた。
ヘレボラスが学名だって。」

母は小さく溜め息をついた。

「咲いてから……あなたに言うつもりだったのかしらね。」
「どういうこと?」
「あの花は『クリスマスローズ』って言うのよ。
クリスマスに薔薇に似た花を咲かせるから。
でも日本では冬に咲く品種はとても育てるのが難しいのよ。
本当によく咲いたわ……。
パパからのプレゼントかしらね。」

そして母は私の肩に優しく手を置いて言った。

「パパから聞いた事があるわ……
クリスマスローズは天使からの贈り物なんだって……。」
 
瞬間、パタパタとこぼれ落ちるものを止めることは出来なかった。
いつになったら涙は涸れるんだろうね、パパ。
 

 
雪は深く積もりそうだった。
ても天使は雪の下からその花を探してくれたのだそうだ。
キリストの誕生を祝う少女のために……。
そして、パパは私のために。
 
 
クリスマス……
全ての人が幸せであるようにと、その花は頭を垂れて花開く。
それはまるで祈りを捧げているように。






 

 

☆Photo/(C)「NEO HIMEISM
(※このお写真は「NEO HIMEISM」さまよりお借りさせて頂き、
 使用させて頂いております。
 こちらからの無断転載はくれぐれもおやめ下さいませ。)



 

 

 

☆words / (C)夏実(ryus_cafe)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
私の大切な友人に捧ぐ。

 

心込めて。

 


  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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